王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 マリーは初めて、自分ひとりで何かを成しえたことに興奮していた。

 道を尋ねるという他愛のないことなのだが、何も言わなくとも不自由することなどなかったこれまでの生活からすれば、十歩も二十歩も一人前の淑女に近づいたようなそんな気分だった。

 しかも、教えてもらった通りに、ちゃんと騎士の学舎に辿り着くことができたのだから、それはもう物語の結末を迎えたかのような感動をマリーは味わっていた。

 ちょうどマリーの目線から上に高い柵が施された石塀が、終わりの見えないところまで続いている。

 街の外れまで歩いてきたここは、間違いなく騎士の学舎だ。

 塀の向こうに見えるレンガ造りの建物を見て、感嘆の溜め息を存分に吐ききると、マリーは入り口を目指してさらに足を進めた。

 見たこともない大きな建物を見上げながら、ウィルがここでいつも鍛錬に励んでいるのだと思うと、なんだかわくわくするようで、とても胸がこそばゆくなる。


 剣術を見たことはないけれど、騎士姿のウィルはとても素敵なんだろうな……。
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