王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 いつだって爽やかで優しい彼の勇ましい姿を想像しながら歩いていくと、見上げていた建物がアーチ型に口を開けたように途切れた。

 その奥は開けていて、草の生えていない広い中庭が見える。

 柵に手をかけ背伸びをすると、砂埃の舞うそこに全身甲冑姿の騎士たちが剣を交えている様子が見えた。

 教科書で見たことのある決闘の一幕が、目の前で繰り広げられている。

 ふたりの騎士が剣を操り、それがぶつかるたびに耳に響く金属の音がこだました。

 怖いような気もするけれど、時折きらりと光り、まるで舞いでも踊っているような剣の動きに、マリーは瞬きも忘れて見入ってしまった。

 すると、片方の騎士が剣を弾き飛ばされて片膝をつく。

 重い金属が地面を叩いたのを最後に、辺りは静まり返ってしまった。

 見えない位置から感嘆の声と拍手が沸き起こると、剣を鞘に納めた騎士が、膝をついた人の手を引き上げて立たせた。
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