王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 おそらく負けたと思われる方が、申し訳なさげに頭を下げる。

 その人の肩を叩き、銀にきらめく兜を外した人の黒髪が、橙に変わりつつある陽の下に現れる。

 マリーがまさかと思ったその横顔は、話し声の届かないここからでも誰なのかがわかった。


 ウィル……っ!


 甲冑に隠されわからなかったはずなのに、剣術の所作だけでもマリーを惹きつけた彼の魅力。

 それほどまでに彼のことを想っている心に感激し、高鳴る鼓動は治まりを知らなかった。

 しばらく会っていなかった彼が、目の前にいる。

 同胞と笑いあっている彼の姿を見つめるだけで、胸がいっぱいになるマリー。

 じっと見据えたままでいると、少しもしないうちに中庭からウィルが姿を消した。

 ときめきに頬を染めていたマリーははっとして、辺りをきょろきょろと見回す。


 きっと入り口付近で待っていれば、会えるに違いないわ!


 そう思い、学舎の入り口を探すため続く塀の先へと急いだ。
< 116 / 239 >

この作品をシェア

pagetop