王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「ウィル……?」

「マリー、……俺は、君のこと――……」

「お嬢様! マリーアンジュお嬢様!」


 ウィルの言葉を続かせなかったのは、焦りを含めた女性の声。

 「お嬢様!」と何度もマリーを呼び、探している様子だ。


「いけない、エレンが呼んでいるわ」


 サファイアの瞳に心を吸い上げられそうになっていたマリーは、はっと大きな目を瞬いた。


 ああ、またこの感じ……


 とても楽しい時間が、一瞬で罪悪感にさらわれてしまう。

 眉間を寄せるエレンの顔が頭に浮かび、胸を膨らませていた感情が、みるみるうちに萎んでいく。

 小さく微笑み、様子を察するウィルの瞳から、名残惜しく視線を外した。

 石積みの立派な建物の影を潜りながら、想像していた通りの表情をしたエレンが、ウィルに冷たい視線を向けながら歩み寄ってくる。
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