王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 この屋敷に仕えて二十年になるエレンはウィルを横目に睨み、彼に対して嫌悪を抱いた雰囲気を突き刺した。


「お嬢様、間もなく奥様がお戻りになられます。早くお屋敷の中へ」

「え、ええ……」


 エレンの冷たい視線の先を辿り、申し訳ない気持ちでいっぱいの瞳をウィルに向け直した。


「ごめんなさい、ウィル……もっと話していたかったけれど……」

「いや、不躾なのは俺の方だ。
 ……エレンさん、あなたの大切な主に気安く声をかけてしまい申し訳ありません」


 瞼を伏せ、謝罪の気持ちを表すウィルを流し、エレンは「お急ぎください」とマリーを急かした。

 後ろ髪を引かれるマリーは、ウィルを振り返りつつも、エレンの後に続いた。
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