王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*  *  *


 週に一度の短い逢瀬を惜しむように、金髪の後ろ姿が屋敷の中へと消えて見えなくなるまで、ウィルはその場でたたずみマリーを見送っていた。

 落胆の色を漂わせることなく凛と背筋を伸ばし、生垣を潜り敷地の外へ出る。

 脇道で待っていたのは、彼の従者であるミケルだ。

 ウィルの倍の人生を生きている彼は、幼い頃から教育係として連れ添っている側近。

 マリーとの逢瀬も温かな目で見守り続けてきた彼から、預けていた剣を受け取った。


「もうそろそろ、ご身分を明かされてもよいのではないでしょうか。まもなく令嬢も社交界へお出になられるはずですし……」


 柄と鞘に金の装飾を施した剣を腰に差しながら、ウィルはミケルの言葉に首を振った。


「いや、俺は地位にものを言わせてマリーを自分のものにしようなどと、思ってはいない。それは初めて出逢ったあの日から変わらない」

「ですが、王太子ともあろうお方に、侍女があのような不躾な態度を取るなど……」

「ミケル」


 ウィルは自分の真の肩書きを口にしたミケルを低い声でたしなめた。
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