王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
想いの強さ
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「それではよろしくお願いいたします」


 両親は、アンダーソン家の豪奢な馬車に乗り込んだマリーを見届けると、微笑むフレイザーに全てを委ねるかのように深々と頭を下げていた。

 初夏の陽射しが降り注ぐ昼下がり。少し暑さは感じるものの、吹く風は爽やかで鬱陶しさはない。

 憎たらしいほどに晴れ渡る雲一つない青空とは裏腹に、マリーの表情は暗く曇っていた。

 フレイザーが隣に乗り込んでくると、扉を閉められた馬車は軽快な馬の足音とともに走り出した。


「今日はいい式典日和だな、マリーアンジュ」


 ガラガラとやかましい車輪の音も楽し気に聴くように、フレイザーは似合わない世間話を口にした。


「婚約者として初めての公の場だ。もっと愛想よくしてくれないか、未来の妻として」


 相槌すら返さなかったマリーの顎を掴み、無理矢理視線を合わせてきた黒の紳士に、エメラルドの瞳は少しの煌めきも含めていなかった。
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