王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 見つめてくる暗黒の瞳に、マリーは感情の一切を見せない。

 金髪の少女はフレイザーのそばに据え置かれた人形のようだ。

 怯えや悲しみを見せるかと思ったマリーの顔をつまらなそうに手放し、窓の外へと視線を流すフレイザー。

 ただ座っているだけの人形であれば、触れられた気持ちの悪さも、心の痛みも感じることなくいられる。

 マリーは自分の心の大切な部分を、いかに傷つけないかだけを考えて生きていけばいいと思っていた。

 自分を愛し守り育ててくれた両親のために、マリーはフレイザーと婚約することを黙って受け入れようと決めたのだ。

 これから、フレイザーとともに王宮へと出向く。

 王太子ウィリアム・ヴィンセント・バークレー殿下の成人式典へ出席するためだ。


 ……ウィル――……。


 心の奥底に仕舞った彼への想いを、こっそりと確かめる。

 それだけで、マリーの心は熱くなり感情が爆発的に膨らみそうになる。

 喉の奥から溢れそうな想いをぐっと嚥下し、わずかに潤みを帯びた瞳を静かに閉じた。


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