王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 大聖堂で執り行われる式典は、粛々とした中で始まった。

 横並びに幾列も置かれた長椅子の一角に、マリーはフレイザーとともに座っていた。

 国内では身分の高いアンダーソン家は、聖堂の中でも比較的祭壇に近い位置に席が設けられている。

 高い天井の建物の最奥は、色とりどりのステンドグラスが太陽の光を取り込み、きらきらと美しい幻想的な空間を作り出していた。


「王太子ウィリアム・ヴィンセント・バークレー殿下」

「はい」


 掲げられた十字架の下。

 司祭の待つ祭壇へ、呼ばれた王太子殿下が脇の階段から登壇してきた。

 今初めて公の場にウィルの姿が晒される。

 純白地に金糸の刺繍が施されたジャケットに身を包んだ王太子。

 式典に相応しい衣装で、高貴さを溢れさせるウィルの姿を恐る恐る見上げる。

 二十年間、限られた人間しか知りえることができなかった王太子の姿に、聖堂内はかすかにざわついた。

 誰もが浮つく中、彼の名前はマリーの胸をぎゅうと苦しくさせる。

 数週間前の夜に別れたきりの彼の、司祭と向き合う横顔に、涙が溢れそうになった。
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