王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「馬車を用意させよう。貴女はそのままお帰りになるといい」


 そう言い残したフレイザーは女性とともに闇へと姿をくらまし、マリーはひとり中庭に置き去りにされる。

 ようやくフレイザーから解放され、張り詰めていた気持ちが解かれた。

 けれど、このままひとりで広間へ戻ったところで、そもそも楽しみにしてきたわけではないパーティーに居場所などない。

 ウィルのそばに行きたかったけれど、王太子殿下に気安く話しかけられるような身分ではないし、今また接触すれば彼は大公爵のフィアンセを横取りするつもりだと揶揄される。

 かねてからの王太子に纏わる悪い噂。

 それを覆す彼の美しい容貌を見て、目の色を変えた女性もたくさんいただろう。

 けれど、結局は傍若無人の王太子だと噂の色が濃くなってしまった。

 自分がそれを助長し、フレイザーの思いのままに使われた駒であることを悟り腹立たしく思う。


 このまま私が大人しく、フレイザー様の花嫁に収まれば……ウィルの尊厳は保たれるはず……。


 そう思ってはみても、エルノアと並ぶ彼の姿を思い描くと、胸が切なさで張り裂けてしまいそうになる。
< 172 / 239 >

この作品をシェア

pagetop