王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 広い王城内。

 手を引かれ通る廊下は、今は誰の姿も見当たらない。

 それはそうだ、招待客は大広間に集まっているし、その大人数をもてなすために使用人はほぼすべてそちらへと回されている。

 ふたりの足音だけが、上等な絨毯を進んでいく。

 マリーの手を引くウィルは時折振り返り、笑みを向けマリーの胸をときめかせた。

 ほどなくして通された部屋は、広間の豪奢な雰囲気とは違い、テーブルセットとソファだけで必要以上のものは置かれておらず落ち着いている。

 広い部屋のもうひとつ奥に続く部屋には天蓋付きの大きなベッド。

 それを見て、ここがウィルの部屋なのだと気づき、さっきまでのときめきとは違いマリーは極度の緊張に襲われた。


「マリーアンジュ」


 マリーを引き入れるなり閉められた扉。

 そこに背をつけさせられ、純白のジャケットをまとった腕に囲われた。

 心臓がけたたましい音で、静かな部屋に鳴り響いている気がする。

 それを知ってか知らずか、ウィルは扉に追い詰めたマリーに顔を傾けて迫り、優しく口唇に触れた。
< 175 / 239 >

この作品をシェア

pagetop