王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「マリー……君はいつからそんなふうに俺を惑わすようになったの」

「え?」


 ウィルはもう一度マリーを抱きしめ、華奢な肩の上で大きな溜め息を吐いた。

 マリーの視界に映らない彼の表情は、堪らないとでもいうような愛おしさを浮かべる。


「ご所望であれば、何度でも拭って差し上げますよ、レディ」


 マリーを覗き込んでくるウィルが、再び触れようと口唇を傾けて迫ると、マリーは自分が言ったことの恥ずかしさに気づいた。

 口づけのお陰だなんて、よくも自らとんでもないことを口にしたものだと、顔から火を噴く。

 それでもウィルに触れられるのはちっとも嫌ではないと思い、初めて知る自分のふしだらさに目が回りそうだ。


「も、もう大丈夫! それより、ウィルは抜け出してきてよかったの……っ?」


 迫る端正な顔をぱっと避け、密着するウィルに早鐘のような鼓動が伝わっていないだろうかと焦るマリーは、会話を逸らそうと尋ねた。


「これから国王陛下に謁見に行く。正式に、婚約を認めてもらう」


 “婚約”という言葉を聞かされ、途端にときめきに溢れていた胸が盛大な反動でずきりと痛んだ。
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