王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「ウィリアム!!」


 そんなふたりの空気を割くように、静かな廊下に金切り声が響いた。


「エルノア」

「何をしているの、ウィリアム。これから婚約の発表をするのでしょう? 皆広間であなたの登壇を待っているわ。わたくしと一緒に参りましょう?」


 肩で息をするエルノアが、必死に苛立ちを抑えようとしているのがわかる。

 ウィルの前だからだろうか。

 焦りと怒りを抑えた笑みは引きつっている。

 これからウィルの婚約相手として、隣に立つつもりでいるのだろう。

 マリーも、少し前まではエルノアが、ウィルの隣でフィアンセとして紹介されるのだと思っていた。


「エルノア、君とは正式な宣誓は交わしていない。父にもまだ、花嫁を誰にするのかは伝えていない」

「冗談でしょう……? わたくしは、今まで貴方の妻になるべくして……」


 今さら、と呟いたエルノアは額を押さえて、ふらりと足を後ずらせる。
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