王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「お父様とお母様には本当に感謝しています。私を大切に育ててくれて。
 だけど……フレイザー様との結婚に、本当はどうしても喜べませんでした」


 今まで伝えることができなかった思いを告げると、父の目はマリーから離れてそばにいるウィルへと向けられた。


「そういうことか……貴様が、娘をたぶらかしたというのは本当らしいな」

「イベール伯爵、たぶらかしたと言われてしまいますと語弊がありますが、私はマリーアンジュ嬢を心からあい――」


 ウィルがマリーに続いて話をしようとすると、父は目の奥に怒りの炎を燃やし、ウィルの胸倉を掴み上げて首を詰めた。


「貴様、娘を愛しているなどとでも言うのか?」

「お父様!!」


 ウィルとあまり体格の変わらない父は、彼の眼前で怒りを爆発させる。

 自分のせいでウィルにも父にも嫌な思いをさせているマリーは責任を感じ、父の腕にすがった。


「お父様待って! こちらの方は……っ」

「はい。愛しています、心から」


 掴まれたままのウィルは、サファイアの瞳を父へと真っ直ぐに向け、真摯な言葉を淀みなく宣った。
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