王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 あまりに実直な言葉と眼差しだったからか、父はわずかにウィルを掴む手を緩めた。


「マリーアンジュ嬢とは、これまでに幾度も逢瀬を繰り返しておりました。
 これまでご両親には秘密にしていたことを、心よりお詫び申し上げます」

「なん、だと……。
 まだ十六にも達していない娘と、婚約しているわけでもないどこの馬の骨ともわからん輩の分際で……」


 これまで抱えていた罪悪感のすべての責任を、ウィルが果たそうとしてくれている。

 彼の真摯な心が、マリーの胸を激しく震わせた。


「お怒りはごもっともだと思います。
 私の身勝手な想いで、無垢なマリーアンジュ嬢に近づいたのですから。
 ですが、私はマリーアンジュ嬢の純粋な心に惹かれ、彼女のことは私が守り幸せにしたいと、思ってきました」


 これはふたりのことなのに、ウィルひとりに任せてばかりでは思いは伝わらないのではないかと思った。

 マリーは怒りに震える父に恐怖と罪悪感を抱きながらも、ここで逃げては行けないと口を開いた。


「ごめんなさい、お父様、お母様。今までずっと言えなくて……きっと咎められるとわかっていたから、隠していたの。
 エレンも、ずっと嫌な思いをさせてきて、ごめんなさい。私のことを思って、父にも母にも黙っていてくれたこと、とても感謝しています」


 ウィルを怒りの目で見る父の横顔に、マリーは心からの謝罪をした。
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