王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「どんなお叱りも罰も受ける覚悟であります。
 ですが、おふたりの気が済んでからで構いません。
 ……マリーアンジュ嬢と、結婚させてください」


 父から目をそらすことなく伝えられる。

 あまりに唐突だったからか、父はにわかにウィルを強く掴み上げる。


「どの口が……!」


 口の中で怒りを呟いた父が、ウィルとの距離を取らないまま、拳を振り下ろした。

 成す術なく、目を瞑ることしかできないマリー。

 けれど、辺りには刹那に静寂が流れ、反射的に瞑ってしまった目を恐る恐る開いた。


「……殿下。
 申し訳ございませんが、ミケルにも堪忍袋というものがあったようです」


 ウィルと父の向こう側に見えたのはミケルの姿。


「ミケル団長殿……」


 愕然と呟いた父の腕はミケルのたくましい手に掴まれ、拳をぶつけられるはずだったウィルの身は無事だ。


「イベール伯爵、すみやかにその手を引いていただきたい。これ以上の愚弄は、側近であるこの私が許しません」


 ミケルは主に向けられた敵意の全部を、騎士団長という肩書きにふさわしい威厳で押し返した。
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