王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「あ、あ、頭をお上げください殿下……!」


 王太子の低い姿勢にはたと瞬いた父は、逆に狼狽を見せた。

 顔は上げるものの膝をついたままのウィルに、父は気を落としたように打ち明ける。


「とてもありがたいお話なのですが、実は娘はフレイザー公と婚約の話を進めていたところでありまして……」

「そのことなら、事態は一転しました」


 困惑の父に事実を告げたのはミケルだ。


「フレイザー公は、王太子殿下とマリーアンジュ嬢の命を狙った罪人として、現在幽閉の身であります」


 それを聞くなり「なんてこと」と母は吐息のような声で呟いた。


「事実上、アンダーソン家との縁談は破談になりました。ここで、王家からの申し出に応えても何の差し支えもございません」

「そ、それなら……!」


 ミケルの話に身を乗り出してきたのは母だ。


「王家との婚姻だなんて、夢にも思っていなかったわ! それに殿下がこんなに真摯で美しい方だったなんて。
 マリーアンジュ、よくやったわ……っ。やっぱり貴女は自慢の娘よ!」

「よさないか。殿下の御前で失礼だぞ」


 歓喜の声を上げた母を、父が恥ずかし気に制した。
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