王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 王家と親族関係を結べることは、どの爵位とも比べる必要なく名誉あることだ。
 
 マリーにだってそれが後世に渡り、イベール家の誇りとして語り継がれるであろうことはわかる。

 けれど、マリーの本意はそこではないのだ。


「お父様、お母様。
 私は、“王太子殿下”との結婚を望んでいるわけではないの」


 ウィリアム王太子の姿は今日充分見ることができたけれど、やっぱりマリーの知るウィルは裏庭に現れる彼だ。


「これまでは私も、ウィルが王太子だなんて知らなかったの。
 近くに住む兄のような、そんな身近な人だった。ウィルはいつも私の知らないことをたくさん教えてくれた。世界はこんなにも広いんだって、彼のお陰で知ることが出来たの」


 マリーにとってウィルがどんな存在なのか、一からすべてを語りたいけれど、結局伝えたいことはひとつだけだ。


「人を愛するということを教えてくれたのも、彼よ。そしてそれが、私の最高の幸せだってことに気づかせてくれた」
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