王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 地位の高い家に嫁ぐことも、もちろんその家族が裕福で将来的にも安定を約束される。

 それが最高の幸せなのだと両親はマリーに教えてきた。

 でも本当の幸せは、生活に困らないという物理的なことだけではないと、マリーは知ったのだ。


「私、ウィルのことを愛しているの。王太子殿下ではない、騎士見習いとして時々うちの庭に顔を出してくれていた彼が……好き」


 マリーの顔は、外灯の明かりに誤魔化されてはいるが、見せられないほど真っ赤だ。

 しっかりと両親を見据えて自分の本当の気持ちを伝えられたことに、言葉にできないほど胸が熱くなり目の前が滲んだ。


「マリーアンジュ……」


 両親が声を揃えて、マリーの名を口にする。


「私、ウィルの……花嫁になりたい」


 そして、初めて聞いたマリーの赤裸々な思いに、ふたりともがマリーと同様に、瞳を潤ませた。
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