王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 金色の髪を一束掬ったウィルの長い指先のしなやかな動き。

 そこにそっと口づけた彼の所作を見て、マリーは自分の口唇にも同じことをされたのだとようやく気がついた。

 途端に、心臓がばくんと大きく弾ける。

 生まれてから今まで感じたことのない、どこから湧きだしたのかわからない堪らない恥ずかしさにマリーは戸惑った。

 自分の一部である髪に口づけるウィルの妖艶な所作が、いつもとは違う雰囲気を醸していて、自分の知っている彼ではないような気がして急に怖くなった。


「……ッ!!」


 ひゅっと息を詰め、マリーは咄嗟にウィルから逃げるように身を引く。

 彼の手から金色の髪がはらりと零れ風に流れた。


「マリー」


 一歩自分に近づいた知らない彼の伸ばされた手から、マリーは思わず逃げ出してしまった。
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