王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 芝生を蹴る自分の足が今にも崩れ落ちてしまいそう。

 駆けているからなのか、それとも心臓が激しく脈を打っているせいなのか、マリーは発作のような呼吸を繰り返す。

 屋敷に飛び込み後ろ手に扉を閉め、息苦しい口元に震える掌を当てた。

 そこに残る、柔らかな感触を思い出すと、さらに胸の苦しさが増してしまった。


 ウィルは……何を、したの……?


 混乱でわからないふりをしてみても、マリーにはそれが、密なる関係の男女が交わす愛の契りであることを察し、その場で足を崩した。



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