王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 しかし、マリーの家に限らず、結婚相手を王太子に、とは望まれていない理由を、ウィルは巷の噂から理解していた。


 バークレー国の次期国王とあれど、性格、容姿ともに醜悪の暴君だとの噂では、誰も娘を嫁になど出したくはないだろうな……。


 どこが出所で広まった噂なのか、知らないわけではない。

 それが広まる一因には、将来一国を担う者としての身の安全確保のため、成人まで表舞台に立たせないようにという国王の意向と古い慣習がある。

 故に、この国の中でも極々一部の人間しか、王太子の姿を知っている者はいない。

 どちらにしろ、ウィルは自分の身分を振りかざすつもりなど、毛頭なかった。

 王家から直々に指名をすれば、花嫁など簡単に手に入れられるだろう。

 けれど、それでは意味が無い。

 ウィルはマリーを、心から愛しているからだ。

 初めて会ったあのときから、マリーのことは心ごと全部を自分のものにしたかった。
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