王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 世の中の十のことのうちの一も知らない、無垢な少女。

 愛らしい容姿に惹かれたのはもちろんだったが、密やかに逢瀬を重ねるうち、自分の持ち込む話にエメラルドの瞳をきらきらと輝かせる少女の純真さに、完全に心を奪われた。

 自分だけがあんな風に少女を喜ばせることができているのだと知ると、それはウィルの自負心を掻き立てていた。

 そしてその想いの強さが、次期国王としての意識の根底を支えてくれていたのだ。

 それにしては……


「……余裕がないな」


 大きく溜め息を吐いたウィルは、馬に跨り手綱を引く。

 そんな主を見つめて、ミケルは親のような笑みを零した。


「何がおかしい」

「貴方様でも年相応の表情をされるのだと思いまして」

「子供だとでも言いたいのか」

「滅相もない。多少の葛藤も経験値として、貴方様の糧になり得ているようでなによりです。
 ミケルとしても、令嬢にはぜひ王家に来ていただかなくてはと強く思った次第ですよ」
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