王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 ミケルには、ウィルを動かすものがマリーへの想いであることがお見通しなのだ。

 ふん、と照れ隠しに顔を背け、ウィルは馬を進める。


「言われなくても、最初からそのつもりだ」

「左様で」


 気丈に見せてみても、長年仕えるミケルにはおそらく通じない。

 ウィルにとっても初めてだった口づけ。

 思っていた以上に柔らかだった彼女の口唇は、ウィルの本能にけしかけた。

 けれど、それを押し止めたのは、マリーが怯えた目をしたからだ。


 突然あんなことをして、怖かったに違いない……


 逃げてしまったマリーの後ろ姿に、ちくりと胸が痛む。

 馬の足音をぼんやりと耳に受けながら、嫌われてしまったのではないかと項垂れる。

 きちんと謝罪をしなければと反省しきりの彼を、ミケルは隣に並んで優しく見つめた。




.
< 36 / 239 >

この作品をシェア

pagetop