王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 マリーは、このときのためにと母が見立ててくれた、白をベースにした清楚なドレスを身にまとう。

 ところどころに散りばめられたリボンが少し幼さを感じさせるものの、愛らしい顔をしたマリーにはよく似合っている。

 淡いピンクのレースがあしらわれた裾野を揺らしながら進める足どりは鈍い。

 大きめのリボンに編み上げられ、きゅっとくびれを作る胴衣のその内側で、きつく絞られているコルセットの苦しさはもちろんのこと。

 それとはまた違う胸の奥の窮屈さに、マリーはたびたび意識を奪われるほどだ。

 あれからというもの、マリーの頭の中は、知らない人のような真剣な表情をしたウィルのことでいっぱいだった。

 心を貫く真っ直ぐなサファイアの瞳。

 生まれてからそれまで誰ひとりとして触れたことのなかった口唇に、彼の柔らかなそれが重なった。

 そしてその口唇から紡がれた、異性としての愛の言葉。


 ーー『愛しているよ、マリー。初めて会ったときから、君を』


 はっきりと耳に残る彼の澄んだ声が、またマリーの胸を苦しく締めつけた。
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