王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 マリーは、今日もまた、週に一度騎士の学舎から帰る途中で訪れるウィルが、自分の知らない世界の話を持ってきてくれるのを、心待ちにしていた。


「そうだ、マリー。一日遅れたけれど、十六歳の誕生日、おめでとう」

「まあっ!」


 大きな瞳に映るのは、一輪の真っ赤な薔薇。

 鼻先に寄せた大輪は、甘い香りを振り撒いていた。


「いい香り」


 マリーの家の庭には、たくさんの花々が咲き誇っているけれど、ウィルから渡されたものは何だか胸の奥をくすぐるような特別な美しさを感じた。

 細い指で受け取った薔薇はきちんと棘の処理がされていて、マリーを傷つけまいとするウィルの心優しい思いが、彼女の胸をふんわりと温かくさせた。


「ありがとう、ウィル。とっても嬉しいっ」


 四年前と変わらず大きく吸い込まれそうなエメラルドの瞳。

 それを携える愛らしい丸顔。玉のような白い肌に自然な頬紅を乗せつつ、近頃では背も伸び、かねてからの愛らしさに加えてずいぶんと大人の女性に近づいた気品をも兼ね備えてきた。

 儚い金色に波打つ美しい髪が、細やかな水色のレースのあしらわれたスカートの膨らみに映え、マリーがウィルに感動を伝えるたびに、ふわふわと風に揺れた。
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