王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「な、な、なにをおっしゃっているのですか!?
 マリーお嬢様が一番ふさわしい令嬢に決まっているではありませんか!」


 マリーの発言は、エレンの耳には気弱に聞こえたのだろう。

 彼女は初めて見る主の自発的な“思い”にうろたえながらも、自信を持ってほしいと力強くマリーを励まそうとした。

 けれど、元々失くすほどの自信なんて持っていたわけではないマリーに、エレンの説得は響かない。

 マリーの中で生まれた思いは、もっと別の方を向いていた。


「私、まだ見たことのない世界をもっともっと見てみたいの。
 例えばもし、このままお話が上手く進めば、フレイザー様の元へ嫁ぐことになる。そしてきっと、私はあの大きなお屋敷の中だけで、これからの人生を生きることになるのでしょうね」

「それの何がいけないのですか!? 大公爵家に嫁いだというだけで、それはそれは幸せなことなのですよ!? 世継ぎを生めば、我がイベール家の繁栄も約束されるのに……っ」
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