王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「ねえ、エレン……私の運命の相手は、フレイザー様なのかしら」

「お、嬢様……」


 こんなことを言ってもエレンを困らせるだけだというのはわかっている。

 実際、目の前でマリーを見つめる茶色の瞳は困惑に揺れていた。

 けれど、その瞳はぐっと瞼に閉ざされたかと思うと、握りしめたままのマリーの手に潰れんばかりの力を込められる。

 そしてかっと目を見開いたエレンは、きつい形相でマリーの後ろを見やった。


「貴方ね! 貴方がお嬢様にいらぬ知恵を吹き込んだからよ!」


 『いらぬ知恵』と言われて、自分が教わってきたたくさんの素敵なことが、まるで非行のような扱いを受けている気になる。


「エレン、それは違うわ!」


 咄嗟に否定したけれど、エレンはマリーに視線を引き戻して、心に語りかけるような口調で言った。


「これまでは、お友達のいないマリーアンジュ様が可哀想で、少しの話し相手だと思って目を瞑ってきました」
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