王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 エレンがウィルとの逢瀬を快く思っていないのはもちろん理解していた。

 けれどそこに、マリーを思うエレンの気持ちを垣間見たことに、ますます罪悪感が募った。


「ですが、……それももうこれまでです!」


 ウィルへと鋭い視線を向け直し、エレンはきっぱりと言い放つ。


「お嬢様は社交界に出られるようになりました。お話し相手ならそこで見つけてくだされば充分です。
 これからはわたくしも、貴方様との密会を黙って見過ごすわけにはまいりません!
 金輪際、お嬢様にはお近づきにならないでください!」


 庭の外にまで聞こえてしまいそうなエレンの声が、三人の間の空気を凍らせる。

 ウィルもまた、マリーのために毎週人目をはばかってここへ来てくれていた。

 マリーの単調な毎日に楽しみをくれて、刺激をもたらし喜ばせてくれて、けれど両親には心配をかけないよう気を配りながら。

 マリーの光だったウィルをなじる言葉に、胸がひどく掻きむしられるようだった。
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