王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 どちらの気持ちも自分のために向けられているものだ。


「楽しかったの……知らないことをたくさん知れて、世の中はうんと広いんだってことを知って、私……」


 どちらかの肩を持つことなんてできるわけはなく、ただ自分の本心だけを切れ切れに吐露することしかできない。

 それを受けるエレンが大きく吐いた呆れた溜め息は、マリーの胸をずきりと痛ませた。


 私は、子どものわがままを口にしているだけなのかしら……

 何の知識もないままでいた方が、皆が幸せでいられたの?


「マリーアンジュ」


 小さな声と瞳を震わせるマリーに、ウィルが優しく呼びかけてきた。

 けれど、それ阻むように、マリーの手を自分の後ろに回して、エレンがウィルとの間に立ち塞がった。

 それでも構わず、ウィルは落ち着いた様子で語りかけた。


「今度会う時は、何の後ろめたさもなく堂々と君に会いに来るよ」

「……っ、ウィル……っ」
< 67 / 239 >

この作品をシェア

pagetop