王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 酷い罵声に青ざめ、マリーはひゅっと息を詰める。


「……っ、エレン!! なんてことを言うのっ!?」


 まったくの誤解であり、確実にウィルを傷つけたであろうエレンに詰め寄るマリー。

 そんなマリーに、エレンはしっかりと言い聞かせるように厳しい口調で言った。


「お嬢様、わたくしは見当違いをしておりました。
 どこの輩ともわからぬ騎士風情と関わることは、今後このエレンが許しません。
 今度その方がここへ姿を現したときには、旦那様に言いつけ、騎士団に突き出します」

「そんな……っ」


 シャンデリアのように煌めいていた世界の光が、そこから奪われてしまいそうな感覚に陥る。


 ウィルとはもう、会えなくなるの……?


 それを予感させられるだけで、マリーの目の前は真っ暗に閉ざされていくようだ。

 何も見ることのできない閉塞的な未来がたやすく想像でき、マリーはウィルからの視界を遮るように立ちはだかるエレンの茶色の瞳を絶望の思いで見つめた。
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