王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
それぞれの思惑
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 胸が重い。

 いつかこんなときが来ることはわかっていたのに。

 フレイザー様に見初められなくとも、自分の家柄よりも上の爵位を持っている誰かの元へ嫁ぐことになるのは……。


 パニエの紐をくくるエレンのにこやかな表情を見ながら、マリーは胸に溜まる重い何かを吐き出した。

 茶色の瞳がちらりと上目遣いに見てきたけれど、コルセットの締め付けのせいだとでも思っただろう。 

 マリーの衣装部屋には、これまで両親が与えてくれたドレスの数々が並んでいる。

 エレンはその中でも、先日の誕生日にもらった淡い黄色の清楚なドレスを選んできた。

 レース生地に袖を通していると、ノックの意味などない勢いで母が入室してきた。


「マリーアンジュ! よくやったわ!
 やっぱりあなたは自慢の娘よっ!」


 大きな羽の付いたつばの波打つ帽子を被ったままの母は、サロンから飛んで帰ってきたのだと一目でわかる。

 彼女は駆け寄るなり、着替え途中のマリーの手をひしと掴んだ。
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