王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 本当に嬉しかった。

 毎年、誕生日には両親からこれでもかというほどたくさんの贈り物をもらってきた。

 昨日は、新しいドレスが五着と靴が三足。じきに社交界デビューするマリーに、恥をかかせないためにと身に着ける装飾品の数々を、両手では溢れるほどにあれこれと用意してくれたのだ。

 もちろん、どれもこれも両親の思いを感じる品々だった。

 けれど、今手にしているたった一輪の薔薇はそのどれよりも美しく見えた。


「でも、そうね。あの素敵な星空を、ウィルと一緒に見られたら、きっともっと楽しかったんだろうなあって思うわ」


 マリーの憧れを妨げるように父の顔が頭を過り、せっかく咲かせた笑顔を少しだけ曇らせた。


「でも、お父様はきっと許してくださらないから……」


 マリーはこれまで、屋敷の敷地の外へは出たことがない。

 必要なものは両親がすべて用意してくれたし、生活に困ることはひとつもなかった。
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