王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 けれど、そこにほんの少しの違和感を覚えたのは、目の前で自分に微笑みかけてくれているウィルに出逢ってからのことだった。

 ウィルは外の世界のことをたくさん知っていた。

 国を豊かにしている山から流れる川は、とても冷たくさらさらと音を立てているとか。

 果てしない草原では風が自由に飛び回り、裸足で歩けばふわふわとした草に押し上げられるように、空に舞い上がる気にさえなるんだとか。

 もちろん、大自然のことだけではない。

 ウィルは世の中の情勢についても詳しかった。

 この国は争い事は少なく比較的平和な国であること。

 温厚な風土が慎ましやかに経済を回し、それに賛同する近隣諸国との国交もとても友好的なものなのだということ。

 色んなことに詳しいウィルは、マリーの興味を一気に引かせた。

 マリーの置かれている環境は、当然両親の愛に包まれて幸せなのだろう。

 けれど、実はその世界はとても狭く、いつからか無知な自分が恥ずかしいと思うようになっていた。

 もっともっと色んなことが知りたい。

 ウィルが見ている世界を、自分もこの目にしたい。

 そう思うマリーに、ウィルは家庭教師が見せてくれないような本をたくさん持ってきてくれた。
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