王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「花嫁は自分で探す」

「片田舎の伯爵令嬢にでも求婚するか?」

 
 知ったような物言いをしたフレイザーに、ウィルはそれまでにないような鋭い視線を向けた。


「フレイザー、貴様……」


 ウィルは苛立ったように歯噛みしながら、強く拳を握る。

 立ち上がろうとすると、部屋をノックする音に出鼻をくじかれて力を抜いた。

 メイドがふたり分のカップを運んでくる。

 傍らの金細工の施されたテーブルに置かれたそれから香ばしい紅茶の香りが立ち昇る。

 けれど、リラックス効果があるはずのそれは、ウィルの心を和ませきれなかった。

 メイドが部屋を出てすぐに、フレイザーはニヤつきながら口を開く。


「あんな片田舎の伯爵家に出入りしていることを、国王が知ったらどう思うだろうか」


 フレイザーがマリーの屋敷を訪れたあの日、姿を見られでもしたのか。

 この男にだけは知られたくなかったことに、ウィルは苛立ちを隠せない。
< 95 / 239 >

この作品をシェア

pagetop