王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「イベール伯爵家第一令嬢、と言ってもあの家の子供は彼女ひとりだが。
 マリーアンジュ、とても初心い娘よ。
 ……この手で、世の摂理を教えこんでやりたいほど無垢な瞳をしていたな」


 下世話な言い方に、ウィルは向けた視線に怒りを燃やした。

 そのたぎるような視線を受けながらも、フレイザーはゆったりとひじ掛けに腕をつく。

 長い指で顎を抱え、ウィルとは違い余裕のある飄々とした笑みを浮かべた。


「やはりあれは他の女とは違うな。まったく世に擦れていない。
 抱き寄せた私に怯えていたよ、エメラルドの瞳を震わせて」


 挑発的な言葉にウィルはまんまとその情景を思い浮かべてしまった。

 自分以外の男が、しかもこのフレイザーが彼女に触れたのだと考えるだけで、頭が沸騰するようだ。
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