王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「このくらいで熱くなるなよ、王太子殿下」


 掴みかかられながらも冷静さは保ったままのフレイザーに、余計に腹が立つ。


「次期国王ともなるお方が、ひとりの少女ごときにいちいち感情を振り回されてどうする」


 しかも、反論などできないことに、ウィルの頭は羞恥にも沸くようだった。

 その感情を精一杯フレイザーを掴む掌の中に込め、奥歯を噛みながら低く唸るように言った。


「……あの子は、貴様の欲望を満たすための道具じゃない」

「抑止できなかった感情に開き直ったな、ウィリアム。あの娘との接触を認めるか」


 ふっと可笑しそうに口の端を上げたフレイザーの喉元を強く引き寄せ、ウィルは眼光に威圧を込める。

 けれど息苦しさも見せないしたり顔に、深い瞬きの奥へ感情を沈め手の力を緩めた。


「ああ、そうだ。
 俺はずっと前から、あの子のつたない教養を高めて、王家にふさわしい花嫁として迎え入れようと思っていた」

「それは困るな」


 もはや隠しても仕方のないことを堂々と認めると、フレイザーは瞬時に表情に鋭さを挿した。
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