やりなおしちゃってもいいんですか?
浩二が靴を履いている間私は何も言えずただ黙っているだけ。

「俺が家を出たらちゃんと鍵を掛けろよ」

「うん」

「何かあったらここに電話して。すぐに駆けつけるから」

浩二は自分の名刺に携帯番号を記入して私にくれた。

そっか・・・私達ってお互いの連絡先すら知らなかったんだ。

私は行こうとする浩二を引き留めるとバッグの中からメモ紙を取り出し

電話番号とメルアドを書いて浩二に渡す。

「ありがとな」

「こちらこそ楽しかった」

浩二の家は知ってるし、これで最後ってわけじゃないのに

何だか胸が締め付けられる。

「行かないで」ってのど元まで出かかっているのに

私はどこかに迷いがあってその一言が言えない。

毎日頭の中は浩二の事ばかり考えていて会えば、会うほど気になって・・・

だからもしかしたら私は浩二の事を・・・って思うのだけれど

一歩踏み出す勇気がなくて・・・今の私には連絡先を渡すのが

精一杯だった。

浩二はバッグを持つと反対の手を上げた。

「じゃあ・・・」

「うん」

-バタン

静かに戸が閉り私は一人になった。
< 68 / 161 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop