March
衣装が完成して、演奏会の日になった。わたしは受付の係になっていて、たくさんの人からチケットを受け取って、パンフレットを渡していた。
演奏会が開演すると、お客さんは急いでホールの扉の中に消えていく。
今日の演奏会は、三年生にとって引退の日だ。
2、3年生の先輩達にとって、とても思い入れがある演奏会だから、ホールから聞こえる演奏はとても感動的だった。
将紀君はドアの係をしていた。一曲演奏が終わる度に、ドアを開ける仕事だ。
少し遠目から、将紀君と目が合ったのに気付いて、手を振ってみた。
将紀君もぎこちなく手を振ってくれた。
「ねぇ」
隣にいた理華ちゃんが声をかけてきた。
「なに?」
「絵梨香ちゃんと保科君って付き合ってるの?」
「え、なんで?」
わたしはそんなこと思いもしなかった。
「いつも一緒にいるからだよ。違うの?」
「違うよー。なんでまた保科君になるの」
「そっか、違ったんだ。前から皆噂してたから……」
そんなこと考えたことも無かったし、第一、将紀君をそんな風に見たことも無かったし。わたしは驚いた。
演奏会が終わったあと、皆で夕食を兼ねて反省会があった。
パートごとに集まって、3年生が部活での思い出を涙ながらに述べていく。わたしも少しうるっときた。
時刻はもう20時になっているから、外は真っ暗だった。反省会が終わっても、皆ずっと話し込んでいた。
わたしは電車の時間を考えて、早々にそこを後にした。
学校から最寄りの駅には将紀君がいた。
噂されていた、と理華ちゃんが言っていたのを思い出して、わたしは躊躇ったけれど、将紀君とわたしの他には誰もいなかったから、やっぱり一緒に帰らせてもらうことにした。