March
次の日、フルートの希望者がフルートパートの先輩に集められた。
「ちょっと急で悪いんだけど、明日オーディションをしようと思うんだ」
わたしは先輩の言葉にどきっとした。
やっぱりわたしは合格とか不合格とか、そういうのに弱いから。
先輩は続けた。
「明日初見でも吹けるような簡単な曲を持ってくるから、係の仕事を10時に抜け出して来てね」
「はい」
わたしは皆につられるように返事をした。
フルートに選ばれなかったら、わたしはどの楽器になればいいのだろう……。


係の仕事に戻った私は、保科将紀君の姿を見つけた。
「保科君……フルートのオーディション明日らしいよー……どうしよう」
「へーそんなのあるんだ………トロンボーンは最初から二人だけだったから無いよ。頑張れ」
「うん………」
理華ちゃんは隣で溜息をついていた。
「いきなり明日なんて心臓に悪いし………絵梨香ちゃん知ってる?ダンス係の子ですごい上手い子がいるんだよー……その子は確実に合格」
「えー……やばいね…………フルートになれなかったら何しよう…」
「わたしそのときは部活やめるかもー…」
二人ともその日はずっと、フルートのことを考えていて、衣装を作る手も進まなかった。


帰り道で、前を歩く将紀君を見つけた。
「保科君」
「ああ、藤原さん。……今日びっくりしたんだけどさ、城ケ崎さんが自分のトロンボーン持ってたけど、皆持ってるもんなの?」
「わたしは持ってるけど…………皆持ってるわけじゃないと思うよ。チューバとかは高くて買えないでしょ」
「そーか。……いいなぁ俺も自分のほしいな………」
「保科君がほしいなって言ったらダジャレみたいだね」
「………確かに」
今日は保科君が初めて笑ったところを見た。

明日は土曜日で、9時から係の仕事。
10時から、恐怖のオーディション。
わたしはオーディションのことを考えたら、気が重かった。
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