HARUKA~始~
昼休み。


ヤツは私より先に現地入りしていた。


「何で石澤くんがここに?」


「さあ、なぜでしょう?」



質問に質問で返す意図が分からない。


コイツ、一体何を考えてるんだ?



…というより、無視だった。

無視を決め込むと心に誓ったんだ。



私は冷静を装って、階段を降りていく。




「あっ、はるちゃん待って」


ヤツが追いかけてくるが、私は止まらない。


とにかく、無視。



「待ってって言ってるじゃん」



私は左腕をぐっと握られた。


一瞬不覚にもドキッとして立ち止まってしまう。 



「一緒に食べようと思って」


私は笑いもせず、何も言わず、ただうつむいた。


この状況、どうしたら良いの?



もう何も言わないなんてできない。 

何か言って立ち去るのがベストだ。



「一緒になんて食べない。私1人で食べる。その方が気楽だし。あそこ、私の場所だから、来ないでほしい。心休まる唯一の場所なんだから」  



「おれ、毎日行く。はるちゃんが許してくれるまで、毎日」


 
「しつこい!来ないでって言ってるでしょう!?」








あっ…ーーーーーーー




つい、大声が出てしまった。



こんな感情的になるなんて、私どうかしてる… 

こんなヤツのために怒る必要無いのに。

無視でいいのに。



唇を強く噛んだ。

血が滲み出てきそうなほどに

強く、強く。



「ごめんね。怒らせちゃったねぇ。もう来ないから、心配しないで」 



長く続いた沈黙を石澤くんが意を決したように破った。



見たことが無い表情だった。

入学してから今日まで、ふにゃふにゃ甘えん坊で、常に笑ってる石澤くんしかみたことなかったから正直驚いた。



っていうより、

もっと別の感情だ。



何だろう、この気持ち…ーーー



そう言い残すと、石澤くんは去っていった。

私は彼の背中を一瞬見て、床に視線を落とした。




見ていられなくなった。


何も言えなかった。


傷つけてしまった。


追いかけて、ごめんねと言えれば良かったのに、言えなかった。




静かな空気感が孤独をより一層深めた。
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