HARUKA~始~
あっと思った時はもう遅かった。


明日の数学は小テストがあるから、教科書を絶対に持って帰らなきゃと思ってたのに…。


バイトに間に合わなくならないよう、私は猛スピードでハラハラと儚く散っていく桜の花びら達の中を駆け抜けた。



「はあ、はあ…」



昇降口に到着した時には既に息が上がっていた。

運動なんて日頃まともにしてないから、こんなに全力疾走したのは一体いつぶりだろうか。



「さてと…、次は階段かぁ」 



階段を恨めしく見つめてから下駄箱を開けた。




ーーーえっ? 




一瞬びっくりして呼吸が止まった。


なぜならそこに透明なビニール袋に包まれた数学の教科書があったからだ。




誰?

何で?

どうして?



疑問符が次々と浮かんで混乱した。



「あれ?蒼井さん?」

 

呆然と立ち尽くしていた私の横に私より10センチ、いや15センチくらい大きい香園寺くんが並んだ。



「何?もしかして…俺のこと待ってた?」



私はとりあえず首をブンブン横にふった。

「そんな訳ないか」と香園寺くんが無邪気に笑う。


それなのに何の反応も無く、ただただボーッと目の前の数学の教科書とにらめっこしている私を妙に感じたのか、香園寺くんが口を開いた。



「原因はそれ?」



「あっ……はい、そうなんですけど」
 


私が口ごもって、香園寺くんが代わりに話し始める。



「それ、ここに入ってたの?」



「はい。でも誰が入れてくれたのか分からなくて…」 



「いやぁ、超鈍感だなぁ、蒼井さん」



爽やか王子スマイルが再登場したが、私は自分が鈍感だと言われ、自覚症状がなかったためにひどく落ち込んだ。
  


「俺は犯人の検討はついてるけど…」



「教えて下さい。お願いします」
  


思いっきり頭を下げた。

そのオーバーリアクションに香園寺くんは一瞬困惑したようだったが、すぐに元の王子スマイルに戻ってこういった。


 
「俺の1日彼女になってほしい。そうしてくれたら…―――――」









「教えてあげる」

  
 





左耳がかあーっと熱を帯びて、体中からエネルギーが抜けていく。


私、溶けちゃいそう………。



「どうする?」



鼻と鼻のキョリ、実に10センチ。
ううん、8センチ?いや…ーーー5センチ?

目を真っ直ぐに見つめられてその目に吸い込まれそうになる。



「あの…その…じ…自分で……」 



「そっか。じゃあ1日彼女、決まりね~」







...―――――ウソ!?







強引すぎるよ、王子様…



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