HARUKA~始~
5月5日午後1時50分。


部活があって結局午後しか空いていなかったらしく、私は彼の「半日彼女」を務めさせて頂くことになりました。

普段利用している駅からたった2駅先に来ただけなのに、街の雰囲気は全然違う。

指定された待ち合わせ場所は駅の南口にある噴水の前。

たぶん間違ってない。どう見ても水が吹き上げているし、近くには4、5人の女子グループやカップルが数組いる。ここに香園寺くんが登場したら、私は彼の顔を見られるのだろうか。

目を閉じて想像するけれど、なんだかボヤーっとして線が明瞭じゃない。
彼と2人きりってどういう気持ちになるのか分からなかった。


「何してるの?」

「うわっ!」


背中に大きなケースとリュックを背負って制服姿で登場したのは、やはりいつ見てもキラキラの王子様…いや、香園寺くんだ。


「そんなびっくりしないで。姫をお迎えにあがっただけだよ」


急に姫なんて呼ばれたから、顔が茹でダコのように真っ赤になった。

必死に隠そうとして俯く。


「かわいい。顔、真っ赤」


言葉に出して言われると、ますます気恥ずかしい…

半日、乗り切れるのかなぁ…

その前に魂どっか行っちゃいそう…


「よし、ランチしよう!俺、腹すき過ぎて死にそう」


私はあなたに見つめられて死にそうだよーーー


「何ボーッとしてんの?行くよ」


右腕を勢い良く握られ、そのまま走り出してしまった。


香園寺くんって、もしかしてちょっと強引?


うかうかしてるとおいて行かれそうだから急いで我に返る。

必死に顔を上げると、香園寺くんの背中で大人しくしている黒のギターケースが目に飛び込んで来た。


うん?ってことは………


頭の中でパズルのラストピースが埋まった。



香園寺くんだったんだ、あの日ギター弾いてたのって...。




やることなすこと全てがかっこいいし、完璧にモテ要素を内包している。

そんな彼に一目惚れされたとは、
本当になんかの間違いなんじゃない?

香園寺ガールズの皆さん、どうか私をお許し下さい。

誰にも会わずに今日を終えられますように。

そう願わずにはいられなかった。
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