HARUKA~始~
「はい、好きなものどんどん頼んでね。今日は俺のおごりだから」 

「いや、でも、お金…」

「気にしない、気にしない。ランチ代くらい男に払わせてよ」


と香園寺くんに押し切られたため、私は思う存分食べることにした。


のだけれどーーーーー



こんなお洒落なカフェに入ったことがなくて、何を注文したらいいか迷った。

メニュー表には知らない単語がズラリと並んでいた。
ランチメニューのフェットチーネは多分パスタの種類だったと思うけど、このテリーヌというものが分からない。


散々メニューを眺め回した挙げ句、ランチBを選択した。
サラダ、パスタ、飲み物、デザートの4点で1480円はこの店の中で一番安かった。
それ以外は2000円以上して高校生に出させるのはちょっと忍びない金額だった。


「もっと食べていいのに。俺なんて贅沢ランチにしちゃったよ。超腹減ってるしー。
パン食べ放題じゃなきゃ、やってられないよ」


私は心の中でくすっと笑った。
やっぱりまだ高校1年生だなぁと思って。

一見大人びているようで、やはり中身は普通の高校男子。
本当はラーメンにチャーハンに餃子みたいなガッツリ系がいいのかも。


「お待たせしました。ランチBと贅沢ランチになります」


店員さんが木の食器に盛りつけられた料理を置いた。

木材を使用しているとはこだわりが強い。

きっと自然食カフェなのだろう。

そういえば、さっきのメニューの2000円以上のランチは有機野菜、つまり今流行りのオーガニック野菜が使われていると書いてあったような…。

香園寺くんは相当食にこだわりを持っているのだろうか。

黙っているのもなんだから、たまには私から質問してみるか。


「あの………香園寺くん」


顔を上げて目の前の彼を見ると目が合った。



これは…ーーーーーまずい。

3秒も経たないうちに私は視線を落としてしまった。
やっぱり、彼といると極度の緊張状態になってしまう。


「どうした?お口に会わなかった?」

「いやあ、その…。オーガニック好きなのかなあと思って」

「オーガニック?……ああ、確かにこのお店、オーガニック使っている料理もあるけど、俺そこまで食にうるさくないから。普通に好き嫌いはあるけど。
このお店を選んだのは、この雰囲気と立地。俺の家さぁ、日本に古くからある名家で由緒正しきお家柄だからさ、常に和食が食卓に並んでて。洋食が食えないから、妙に恋しくなるんだよなあ。小・中・高と私立で公立の給食食えなくて超ガッカリしたもん。
んで見つけたのが、この店。今では月1で通う常連。バイトさんは分かんないけど昔から働いてるパートさんとは顔馴染み」

「そうなんだあ…」


色々と大変なんだと思った。人は1人1人違う悩みの種を抱えていて、きっと様々に思い悩んでいるんだなぁ。


「ああごめん。長々と。失礼致しました。」

「いや、大丈夫。香園寺くんの秘密がしれてラッキーです」

「そう?それならいいけど…」


それからはとりあえず料理が冷めないうちに黙々と食べた。

香園寺くんは相当お腹が空いていたらしく、何度もパンのお代わりをした。
そのたびに私は吹き出しそうになったけどなんとかこらえて、以外な一面の一部始終を見逃すまいと、獲物を狙うチーターのように鋭く目を尖らせていた。
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