HARUKA~始~
今日は朝あんなことがあったため教室から一刻でも早く立ち去りたかった。
いつもは例の東階段3階踊場付近で昼休みを過ごしているけれど、外に出てスカッとしたいなあと思って弁当箱と英単語帳を持って教室を出た。
体育館の前を通るとバスケをしている男連中がいた。
どうやら中は女子バレー部に占領されていて使わせてもらえないらしい。
やはり女子に口負けしたんだろうか。
「口喧嘩では妻にはかないません」と朝の情報番組の街頭インタビューで答えていた男性を思い出してクスッと笑ってしまった。
私のその笑いが気に食わなかったのか、ヤツらの中の2人が一瞬こっちをじろりと睨んできたが、それが原因でパスミスを生じたらしく、
「わりぃわりぃ」と平謝りしていた。
ざまぁみやがれ。
そんな彼らを尻目に、私は体育館の校庭にやってきた。
男子サッカー部とハンドボール部が、こちらは仲良く使っている。
「あっ、あそこ良いかも」
男子サッカー部が利用している側に、青々とした葉が茂り、幹が太く、天に向かって勇ましくそびえ立っている立派な大木を見つけた。
私は誰にも取られまいと必死に校庭を横切り、その大木の下に腰を下ろした。
ジャージを着ていたし、ここ数日雨も降っておらず、土も乾いているから座ってもあまり汚れないで済みそうだ。
あぁ、気持ちぃ。
たまには、春風に吹かれて木々の独特な香りをいっぱい吸い込みながら食事をするのもいいかもしれない。
葉と葉の間からわずかに差し込む光―――――。
急に幻想的な世界にいざなわれたような感覚を覚えた。
「いただきます」
いつも「いただきます」なんて言わずに黙々と弁当を食べてて、食事しているというよりも栄養摂取していると言った方がしっくりくるような時間を過ごしているけど、今日はやっぱり違う。
気分が良いし天気も良いから、弁当が美味しく感じる。
「食事している感」がきちんとある。
いつもよりもミニトマトとかブロッコリーが甘く感じる。
玉子焼もめんつゆの味付けにしては香りを感じる。しょっぱさが無い。
そしてそして…私の大好きなおにぎりたち!
おかかと梅干し…
待ってたよー
「いただきます」
そう言って大きく口を開けた次の瞬間だった。
シュッと目の前を何かが横切り、それが大木に当たって跳ね返り、勢いそのままに私の弁当にぶつかり、一口残していた玉子焼が砂の上に落ち、梅干しのおにぎりはコロコロと砂をコーティングしながら30センチくらい進んでストップ。
おかかのおにぎりは、手からするりと滑り落ちた。
ーーーそんな。
せっかく作ったのに…
美味しく食べてたのに…
今日はとことんツイてない。
悲し過ぎて涙もでず、私はただただ俯いていた。
「すみませーん」
そう言って駆け寄ってきたのはサッカー部の少年だった。
「ケガしてないですか」
「あっ、はい、…大丈夫…です」
外的に傷は負ってないけど、心に傷を負った。
あんたのせいだからね!?と起こりたくなったがそれも一瞬。そんな気力も湧いてこなかった。
砂まみれになった食べ物たちを恋しく見つめることしかできない。こうなるんだったら、玉子焼残しておかなきゃ良かった…
――――ああ、絶望。
「お弁当…ごめんなさい。弁償するので、落ちた分、材料費いくらくらいですか?」
「いや、大丈夫なので、練習頑張って下さい」
「そう言う訳にはいきません。とりあえず今200円ここに入っているのでこれで勘弁して下さい」
サッカー部の彼がジャージのポケットの中を探る。
いや、おにぎり2個に玉子焼半個では200円にもならないけど…。
というか、この人すごく真面目だ。
サッカー部って、何かチャラチャラしててちょこまか動いてるイメージがあるけど、この人は違う。
私がどれだけお弁当を大切にしているかをきっと一瞬で察してお金を出してきたんだろう。
お金では代わりにならないのも、もちろん承知の上で。
なんか、逆に気を遣わせてしまって申し訳なかった。
「もらわないとダメですか」
「はい!これが俺の精一杯の謝罪です」
「わかりました。私…もらいません」
えっ…という顔をされた。
でも、いい。
その代わり…
「優勝して下さい、今度の高体連で。それが今日の代償です」
「わかりました!必ず優勝します!」
彼はそういい残し、深々と私に頭を下げ、ボールを小脇に抱えてチームメイトの元に駆けて行った。
私は彼を見つめながら、心の中で言った。
あなたが真面目で人が良くて気が利いている良い人だって分かったから許したんです。
だから、サッカー頑張って下さい、と。
私は砂まみれの食べ物をティッシュで1つ1つ拾い上げて包んでゴミ箱に捨てた。
心の傷は100パーセントは癒えてないけど、でも彼の真摯な対応で幾分痛みが軽減された。
いつもは例の東階段3階踊場付近で昼休みを過ごしているけれど、外に出てスカッとしたいなあと思って弁当箱と英単語帳を持って教室を出た。
体育館の前を通るとバスケをしている男連中がいた。
どうやら中は女子バレー部に占領されていて使わせてもらえないらしい。
やはり女子に口負けしたんだろうか。
「口喧嘩では妻にはかないません」と朝の情報番組の街頭インタビューで答えていた男性を思い出してクスッと笑ってしまった。
私のその笑いが気に食わなかったのか、ヤツらの中の2人が一瞬こっちをじろりと睨んできたが、それが原因でパスミスを生じたらしく、
「わりぃわりぃ」と平謝りしていた。
ざまぁみやがれ。
そんな彼らを尻目に、私は体育館の校庭にやってきた。
男子サッカー部とハンドボール部が、こちらは仲良く使っている。
「あっ、あそこ良いかも」
男子サッカー部が利用している側に、青々とした葉が茂り、幹が太く、天に向かって勇ましくそびえ立っている立派な大木を見つけた。
私は誰にも取られまいと必死に校庭を横切り、その大木の下に腰を下ろした。
ジャージを着ていたし、ここ数日雨も降っておらず、土も乾いているから座ってもあまり汚れないで済みそうだ。
あぁ、気持ちぃ。
たまには、春風に吹かれて木々の独特な香りをいっぱい吸い込みながら食事をするのもいいかもしれない。
葉と葉の間からわずかに差し込む光―――――。
急に幻想的な世界にいざなわれたような感覚を覚えた。
「いただきます」
いつも「いただきます」なんて言わずに黙々と弁当を食べてて、食事しているというよりも栄養摂取していると言った方がしっくりくるような時間を過ごしているけど、今日はやっぱり違う。
気分が良いし天気も良いから、弁当が美味しく感じる。
「食事している感」がきちんとある。
いつもよりもミニトマトとかブロッコリーが甘く感じる。
玉子焼もめんつゆの味付けにしては香りを感じる。しょっぱさが無い。
そしてそして…私の大好きなおにぎりたち!
おかかと梅干し…
待ってたよー
「いただきます」
そう言って大きく口を開けた次の瞬間だった。
シュッと目の前を何かが横切り、それが大木に当たって跳ね返り、勢いそのままに私の弁当にぶつかり、一口残していた玉子焼が砂の上に落ち、梅干しのおにぎりはコロコロと砂をコーティングしながら30センチくらい進んでストップ。
おかかのおにぎりは、手からするりと滑り落ちた。
ーーーそんな。
せっかく作ったのに…
美味しく食べてたのに…
今日はとことんツイてない。
悲し過ぎて涙もでず、私はただただ俯いていた。
「すみませーん」
そう言って駆け寄ってきたのはサッカー部の少年だった。
「ケガしてないですか」
「あっ、はい、…大丈夫…です」
外的に傷は負ってないけど、心に傷を負った。
あんたのせいだからね!?と起こりたくなったがそれも一瞬。そんな気力も湧いてこなかった。
砂まみれになった食べ物たちを恋しく見つめることしかできない。こうなるんだったら、玉子焼残しておかなきゃ良かった…
――――ああ、絶望。
「お弁当…ごめんなさい。弁償するので、落ちた分、材料費いくらくらいですか?」
「いや、大丈夫なので、練習頑張って下さい」
「そう言う訳にはいきません。とりあえず今200円ここに入っているのでこれで勘弁して下さい」
サッカー部の彼がジャージのポケットの中を探る。
いや、おにぎり2個に玉子焼半個では200円にもならないけど…。
というか、この人すごく真面目だ。
サッカー部って、何かチャラチャラしててちょこまか動いてるイメージがあるけど、この人は違う。
私がどれだけお弁当を大切にしているかをきっと一瞬で察してお金を出してきたんだろう。
お金では代わりにならないのも、もちろん承知の上で。
なんか、逆に気を遣わせてしまって申し訳なかった。
「もらわないとダメですか」
「はい!これが俺の精一杯の謝罪です」
「わかりました。私…もらいません」
えっ…という顔をされた。
でも、いい。
その代わり…
「優勝して下さい、今度の高体連で。それが今日の代償です」
「わかりました!必ず優勝します!」
彼はそういい残し、深々と私に頭を下げ、ボールを小脇に抱えてチームメイトの元に駆けて行った。
私は彼を見つめながら、心の中で言った。
あなたが真面目で人が良くて気が利いている良い人だって分かったから許したんです。
だから、サッカー頑張って下さい、と。
私は砂まみれの食べ物をティッシュで1つ1つ拾い上げて包んでゴミ箱に捨てた。
心の傷は100パーセントは癒えてないけど、でも彼の真摯な対応で幾分痛みが軽減された。