HARUKA~始~
窓から爽やかな風が吹いてくる。
――――訳がなかった。
日がジリジリと照りつけてきて、私の顔に直接当たる。
ジワジワと熱が上がり、大火傷しそうだ。
「ただ単に、席が離れたから話さなくなっただけ。それ以上でも以下でもない」
「素直になりなよー。私なんてさぁ、このカメラで大好きな人撮りまくってるよー」
カシャカシャ…
カシャカシャカシャカシャ…
激しい連写の音が耳障り。
席を立とうとすると、八千草ちゃんが止めにかかる。
「ちょっとぉ。私の好きな人、知りたくないのぉ?」
「別に…」
バシッ。
右肩をがっしりと掴まれた。
睨み殺すような目つきで私を見てくる。
「私に逆らうとどうなるでしょ?」
息を呑む。
そう。この人に逆らったら私ここに居られなくなるかもしれないんだ。
「うん、知りたいよ。誰?」
感情は無い。
形式的な言葉を言うだけ。
「グランドの中央の彼」
...やっぱり。
なんとなく分かってた。
八千草ちゃんは毎日昼休みになると関くんがいなくなるのを見計らって彼の席を占拠するから。
別に驚きも何もない。
「何、知ってたの?つまんない」
彼女は拗ねて再びカメラを構えた。
しかしよくもまあこんなストーカー紛いな行動が出来ること…
ここ数日こうして一緒に過ごしてわかった。
一言で言うと付き合いづらい。
彼女は自分の理想通りに行かないとヤキモキして、自分の好きな人が自分の所有物にならないと執念深くつきまとうタイプだ。
完璧なストーカー気質。
だから私は自分から話しかけない。
誤解を招いたら厄介だし、もうこれ以上人に振り回されるのはごめんだ。
はあ…。
昼休みくらい心を休ませてよ。
弁当に向き直り、おにぎりに手を伸ばす。
今日はおにぎりコロリンスットントンにならない、よね?
大きく口を開けて、目いっぱい頬張る。
そして目をつぶり、味わう。
米一粒一粒の甘味と具の旨味や塩味が舌の上で混ざり合い、美味しいと実感する。
うーん、しあわせ…
「はるちゃん、おにぎり美味しい?」
「うん、すんごく美味しい」
...って、この声は、まさか!?
恐る恐る目を開けると…―――いた、ヤツが!!
蚊を見つけて早く殺そうとする人みたいに私は戦闘態勢に入った。
「何?邪魔しないで!!あっちいって!!私は今大好きなおにぎりを美味しくいただいてたの!!」
「うん、知ってるよぉ。おにぎり食べ始まったからこっちに来たんだよぉ。そしたらビンゴぉ。はるちゃんのベストショット間近で見られたぁ」
コイツ…
八千草楓と同じ匂いがする。
狙った獲物は逃がさないという野獣精神、本当にそっくり。
「お願い、一生のお願い。距離を取ってほしいの。物理的にも精神的にも」
「難しくて分かりませ~ん」
「いい加減にして。高校生でしょ」
「はるちゃんのこと、もっと観察したいのに許してくれなぁい。つまんなぁい」
「動物扱いしないで!私はヒト科ヒト属ヒトなの!!観察対象外だから!!動物園にいないから!!」
一気に怒りをぶつけるも、ヤツはヘラヘラして私の視界にドアップに写り込んでくる。
「バカ」
私が何気なく口走るとさらにニヤニヤとこっちを見てきた。
「リピート、アゲイン」
一体、どんなリクエストしてくるんだ、コイツは?
私はもうお手上げ。
誰か、コイツの面倒見るの代わって下さい。
「リピート、リピートぉ」
「言わない。アンタを構ってる暇なんてない。あと10分で休み時間終わるし、英語の単語テストの勉強しなきゃならないの」
「はるちゃんのケチんぼぉ」
憎たらしいまん丸のほっぺを膨らませる。
アンパーンチ!!
いや、してないけど…
「英語、勉強した方が良いよ。何せ受動態も分かんないんだから」
「おれ、英語得意だから大丈夫。文法が分かんないだけ」
はあ?文法分かんないで英語が得意とかよく言えるね。
珍発言ばかりでついていけない。
ため息をわざとらしくついて…
「じゃあね。バイバイ」
強制シャットダウン。
「シーユー バイ アフタースクール」
アフタースクールつまり放課後も来る気か…
今日はバイトは無いけれど、早く家に帰って弁当に入れるおかずのストックを作らなければならないし、食料調達に行ったり、ATMでお金を下ろしたりしなければならないから忙しい。
諸事情により学生兼主婦なのでね。
そんじょそこらの女子高生とは生きてる環境が違うのだ。
私はお嬢様じゃない。
自分で頑張って働いて奨学金をもらいながら、なんとか私立の高校に通ってる。
シビアなんだよ、家は。
ふと現実が頭をよぎって、ハッと我に返った。
ベランダに居たはずの八千草ちゃんは自分の席に着き、撮った写真を見て満足げにニンマリしている。
そして目の前には汗でびっしょりの半袖ジャージがあった。
そっか、もう休み時間、終わりか…
キーンコーンカーンコーン…
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴って一気に教室が静まり返る。
この瞬間が私は好きだ。
――――訳がなかった。
日がジリジリと照りつけてきて、私の顔に直接当たる。
ジワジワと熱が上がり、大火傷しそうだ。
「ただ単に、席が離れたから話さなくなっただけ。それ以上でも以下でもない」
「素直になりなよー。私なんてさぁ、このカメラで大好きな人撮りまくってるよー」
カシャカシャ…
カシャカシャカシャカシャ…
激しい連写の音が耳障り。
席を立とうとすると、八千草ちゃんが止めにかかる。
「ちょっとぉ。私の好きな人、知りたくないのぉ?」
「別に…」
バシッ。
右肩をがっしりと掴まれた。
睨み殺すような目つきで私を見てくる。
「私に逆らうとどうなるでしょ?」
息を呑む。
そう。この人に逆らったら私ここに居られなくなるかもしれないんだ。
「うん、知りたいよ。誰?」
感情は無い。
形式的な言葉を言うだけ。
「グランドの中央の彼」
...やっぱり。
なんとなく分かってた。
八千草ちゃんは毎日昼休みになると関くんがいなくなるのを見計らって彼の席を占拠するから。
別に驚きも何もない。
「何、知ってたの?つまんない」
彼女は拗ねて再びカメラを構えた。
しかしよくもまあこんなストーカー紛いな行動が出来ること…
ここ数日こうして一緒に過ごしてわかった。
一言で言うと付き合いづらい。
彼女は自分の理想通りに行かないとヤキモキして、自分の好きな人が自分の所有物にならないと執念深くつきまとうタイプだ。
完璧なストーカー気質。
だから私は自分から話しかけない。
誤解を招いたら厄介だし、もうこれ以上人に振り回されるのはごめんだ。
はあ…。
昼休みくらい心を休ませてよ。
弁当に向き直り、おにぎりに手を伸ばす。
今日はおにぎりコロリンスットントンにならない、よね?
大きく口を開けて、目いっぱい頬張る。
そして目をつぶり、味わう。
米一粒一粒の甘味と具の旨味や塩味が舌の上で混ざり合い、美味しいと実感する。
うーん、しあわせ…
「はるちゃん、おにぎり美味しい?」
「うん、すんごく美味しい」
...って、この声は、まさか!?
恐る恐る目を開けると…―――いた、ヤツが!!
蚊を見つけて早く殺そうとする人みたいに私は戦闘態勢に入った。
「何?邪魔しないで!!あっちいって!!私は今大好きなおにぎりを美味しくいただいてたの!!」
「うん、知ってるよぉ。おにぎり食べ始まったからこっちに来たんだよぉ。そしたらビンゴぉ。はるちゃんのベストショット間近で見られたぁ」
コイツ…
八千草楓と同じ匂いがする。
狙った獲物は逃がさないという野獣精神、本当にそっくり。
「お願い、一生のお願い。距離を取ってほしいの。物理的にも精神的にも」
「難しくて分かりませ~ん」
「いい加減にして。高校生でしょ」
「はるちゃんのこと、もっと観察したいのに許してくれなぁい。つまんなぁい」
「動物扱いしないで!私はヒト科ヒト属ヒトなの!!観察対象外だから!!動物園にいないから!!」
一気に怒りをぶつけるも、ヤツはヘラヘラして私の視界にドアップに写り込んでくる。
「バカ」
私が何気なく口走るとさらにニヤニヤとこっちを見てきた。
「リピート、アゲイン」
一体、どんなリクエストしてくるんだ、コイツは?
私はもうお手上げ。
誰か、コイツの面倒見るの代わって下さい。
「リピート、リピートぉ」
「言わない。アンタを構ってる暇なんてない。あと10分で休み時間終わるし、英語の単語テストの勉強しなきゃならないの」
「はるちゃんのケチんぼぉ」
憎たらしいまん丸のほっぺを膨らませる。
アンパーンチ!!
いや、してないけど…
「英語、勉強した方が良いよ。何せ受動態も分かんないんだから」
「おれ、英語得意だから大丈夫。文法が分かんないだけ」
はあ?文法分かんないで英語が得意とかよく言えるね。
珍発言ばかりでついていけない。
ため息をわざとらしくついて…
「じゃあね。バイバイ」
強制シャットダウン。
「シーユー バイ アフタースクール」
アフタースクールつまり放課後も来る気か…
今日はバイトは無いけれど、早く家に帰って弁当に入れるおかずのストックを作らなければならないし、食料調達に行ったり、ATMでお金を下ろしたりしなければならないから忙しい。
諸事情により学生兼主婦なのでね。
そんじょそこらの女子高生とは生きてる環境が違うのだ。
私はお嬢様じゃない。
自分で頑張って働いて奨学金をもらいながら、なんとか私立の高校に通ってる。
シビアなんだよ、家は。
ふと現実が頭をよぎって、ハッと我に返った。
ベランダに居たはずの八千草ちゃんは自分の席に着き、撮った写真を見て満足げにニンマリしている。
そして目の前には汗でびっしょりの半袖ジャージがあった。
そっか、もう休み時間、終わりか…
キーンコーンカーンコーン…
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴って一気に教室が静まり返る。
この瞬間が私は好きだ。