HARUKA~始~
人工的な光が目にダイレクトに入って来て、目を細めた。
微かに白い無機質な天井が見える。



ここはどこ?

私、いつからここに?

というより、私何してたんだっけ?



疑問が一挙に頭を覆って思考停止になる。


「大丈夫?」


どこからか声が聞こえる。

声の方に顔を向けると、優しい笑顔がそこにあった。


「良かった。無事だったあ…」


素直に喜ぶその姿に一瞬胸がドキッとなる。

耳がかぁーっと熱くなって、赤くなっていないか心配になる。


「晴香ちゃん、どこか痛いところ無い?」

「大丈夫です。それより、なんで私ここに?」

「急に倒れたんだよ。意気揚々と逃げ回ってるように見えたからビックリした」

「心配かけてごめんね。でも、関くんのお陰でだいぶ長く生き残れたよ。…ありがとう」





...ありがとう




久しく口にしていなかった言葉。

素直に、口から滑り落ちるように言葉になった。


「いやいや、まだまだ練習しなくちゃね~。逃げるだけがドッヂボールじゃないから。でも、良く頑張りました」


爽やかで暖かくて優しい笑顔が私の心の一部を溶かした。

あの日から今まで決して溶けずにガチガチに凍っていたのが嘘のよう。

驚きよりも嬉しさの方が勝って、自然と笑顔がこぼれた。


「今日はゆっくり休んで。次の練習からは時間早めて8時からにする。熱中症患者が出たら困るからね~」

「以後気をつけます」

「じゃあ、また今度」

「今日は本当にありがとう」

 
関くんはそう言い残し、スマートに去っていった。






そういえば、いつだか八千草ちゃんが言ってた気がする。 



『関くんは1年生にしてエースナンバーを背負っているんだよ。
なんでって、関くんは技術もさることながら、周りを見て自分がやるべきことを瞬時に判断できる能力に長けているから。
常に周りに気を使えるってすごいよね』



確かにその通りだ。

私は100パーセント納得した。

そして、関くんを尊敬しようと思った。





保健室から見える景色はいつもと違う。
上階にいない分、グラウンドの様子が間近に見られる。

グラウンドを駆け抜ける大勢の男子の中に関くんを見つける。

10と書かれたジャージを着た彼は、私の目に特別輝いて映った。


どうしてそうなったのか、なんとなく分かる気もするけれど、今は言葉に表さない。
言葉は発してしまったら取り返しがつかないし、その通りにしなければならなくなる。
今はまだ、特定の感情に捕らわれたくない。

もっと色んな角度から彼を見てみたい。




午後1時24分13秒。

私の心が新しい何かに許しを求めた。
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