HARUKA~始~
第4章 高1の夏、ハイタッチ
桜のトンネルから緑色のトンネルに変わり、葉と葉の間からお日様が顔を出している。
夏休みはあっという間に過ぎ、授業が再開し、夏休み明けのテストが終わり、残されたのは前期期末テストと体育祭の2つとなった。
今日からテスト準備期間。
普段部活をしている生徒も今日からの一週間は一応早く帰るのだろう。
勉強するかしないかは置いといて…
ぞろぞろと昇降口に人が集まってくる。
一挙に人の波が押し寄せてきて飲み込まれそうになる。
かなり息苦しい…
「晴香ちゃん、無謀なことは止めなよ」
私の右腕が突然盗まれて、私は人の波から救い出された。
ふと顔を上げると、久しぶりの顔がこちらを見つめていた。
「ありがとうございます、香園寺くん」
「どう致しまして」
彼とは久しく会っていなかった。
何せ、バンド部のライブ練習があって、ドッヂボールどころではなくなったからだ。
「晴香ちゃん、相変わらずかわいいことするね~。わざわざ人の波に飲み込まれていくなんてさ」
―――――かわいい…
甘い言葉を躊躇無くさらっと言えちゃうのが、さすが王子。
そしてまんまと罠にはまって顔を赤らめてしまう私…
「そう言えばさ、晴香ちゃん、ライブ来てくれたよね?俺、一瞬で見つけたんだ。ギター弾いててパッと顔上げたら、頑張ってぴょんぴょん跳ねてる晴香ちゃん見つけてさあ…。嬉しかった!それに晴香ちゃん、うさぎみたいでかわいかったよ~」
「えっと…その…あの…、香園寺くん、かっこよかったです。ギターの音色もステキで、普段余りロック聴かないんですけど、ノリノリでした!」
「本当に?ムリして無い?」
「いいえ、全然」
それなら良かった…と胸をなで下ろす香園寺くん。
でも、どこか悲しげ…
分かってるんだろうな、きっと。
―――――私が本当はムリしてたってこと。
優しいのは時に罪となる。
そう実感した。
「あのう…体育祭もうすぐですよね?後半の練習出られなかったけど大丈夫ですか?」
「そっか…忘れてた。まあ、何とかなるよ。何せウチのクラスにはスポーツに関して熱すぎるくらい熱い男、関太一が居るからね~」
「えっ?俺のこと呼んだ?」
まさにベストタイミングで関くんが階段をチーターのごとく降りてきた。
でも帰宅組では無い様子。
いつも着ている群青色のジャージを着て、重そうなスポーツバッグを肩に掛けている。
「おっと、今から部活?」
「そう。10月の1週目にデカい大会あってさ。まあ、もちろん優勝狙っているからテストなんて関係無しに毎日練習」
確かサッカー部は朝昼晩、全部練習している。
朝は大声出してグラウンドを走り回っているし、早弁して昼休みを有効活用し、放課後は試合形式で練習したりしている。
大変なんだなあ…
勉強している暇なんて絶対無い。
質問されたら快く答えてあげないと…
その前にしっかり勉強して答えられるようにしないとなぁ。
「俺、約束は絶対だと思ってるから。必ず優勝するよ」
関くんの視線が私に向けられた。
あの日の約束、まだ忘れてなかったんだ。
おぼえててくれたんだ。
嬉しい…
蓋がパカパカと音を立てる。
抑えろ、私。
今はまだ。
時はまだ。
「じゃあ、また明日!2人共頑張ってねー!」
そう言い残し、関くんは登場時と同じく、チーターのごとく颯爽とグラウンドへ駆けていった。
「やっぱり関は手強いなぁ…。俺のライバルとして不足無し」
香園寺くん、完全に私の気持ちに気づいてる。
それで居てこうやって接してくる。
どんな気持ちなのか考えたこと無かったけど、今思ったら胸がズキズキと激しく痛んだ。
「じゃあ、俺達は勉強しますか」
「はい」
「また明日!気をつけて帰ってねー」
頭に香園寺くんの大きな手のひらが乗る。
伝わってくる温度に私は身を任せることができない。
本当ならば、もの凄く光栄なことなのに…
辛いだけ。
彼の体温がますます私を苦しめる。
彼は終始にこやかに昇降口を後にした。
夏休みはあっという間に過ぎ、授業が再開し、夏休み明けのテストが終わり、残されたのは前期期末テストと体育祭の2つとなった。
今日からテスト準備期間。
普段部活をしている生徒も今日からの一週間は一応早く帰るのだろう。
勉強するかしないかは置いといて…
ぞろぞろと昇降口に人が集まってくる。
一挙に人の波が押し寄せてきて飲み込まれそうになる。
かなり息苦しい…
「晴香ちゃん、無謀なことは止めなよ」
私の右腕が突然盗まれて、私は人の波から救い出された。
ふと顔を上げると、久しぶりの顔がこちらを見つめていた。
「ありがとうございます、香園寺くん」
「どう致しまして」
彼とは久しく会っていなかった。
何せ、バンド部のライブ練習があって、ドッヂボールどころではなくなったからだ。
「晴香ちゃん、相変わらずかわいいことするね~。わざわざ人の波に飲み込まれていくなんてさ」
―――――かわいい…
甘い言葉を躊躇無くさらっと言えちゃうのが、さすが王子。
そしてまんまと罠にはまって顔を赤らめてしまう私…
「そう言えばさ、晴香ちゃん、ライブ来てくれたよね?俺、一瞬で見つけたんだ。ギター弾いててパッと顔上げたら、頑張ってぴょんぴょん跳ねてる晴香ちゃん見つけてさあ…。嬉しかった!それに晴香ちゃん、うさぎみたいでかわいかったよ~」
「えっと…その…あの…、香園寺くん、かっこよかったです。ギターの音色もステキで、普段余りロック聴かないんですけど、ノリノリでした!」
「本当に?ムリして無い?」
「いいえ、全然」
それなら良かった…と胸をなで下ろす香園寺くん。
でも、どこか悲しげ…
分かってるんだろうな、きっと。
―――――私が本当はムリしてたってこと。
優しいのは時に罪となる。
そう実感した。
「あのう…体育祭もうすぐですよね?後半の練習出られなかったけど大丈夫ですか?」
「そっか…忘れてた。まあ、何とかなるよ。何せウチのクラスにはスポーツに関して熱すぎるくらい熱い男、関太一が居るからね~」
「えっ?俺のこと呼んだ?」
まさにベストタイミングで関くんが階段をチーターのごとく降りてきた。
でも帰宅組では無い様子。
いつも着ている群青色のジャージを着て、重そうなスポーツバッグを肩に掛けている。
「おっと、今から部活?」
「そう。10月の1週目にデカい大会あってさ。まあ、もちろん優勝狙っているからテストなんて関係無しに毎日練習」
確かサッカー部は朝昼晩、全部練習している。
朝は大声出してグラウンドを走り回っているし、早弁して昼休みを有効活用し、放課後は試合形式で練習したりしている。
大変なんだなあ…
勉強している暇なんて絶対無い。
質問されたら快く答えてあげないと…
その前にしっかり勉強して答えられるようにしないとなぁ。
「俺、約束は絶対だと思ってるから。必ず優勝するよ」
関くんの視線が私に向けられた。
あの日の約束、まだ忘れてなかったんだ。
おぼえててくれたんだ。
嬉しい…
蓋がパカパカと音を立てる。
抑えろ、私。
今はまだ。
時はまだ。
「じゃあ、また明日!2人共頑張ってねー!」
そう言い残し、関くんは登場時と同じく、チーターのごとく颯爽とグラウンドへ駆けていった。
「やっぱり関は手強いなぁ…。俺のライバルとして不足無し」
香園寺くん、完全に私の気持ちに気づいてる。
それで居てこうやって接してくる。
どんな気持ちなのか考えたこと無かったけど、今思ったら胸がズキズキと激しく痛んだ。
「じゃあ、俺達は勉強しますか」
「はい」
「また明日!気をつけて帰ってねー」
頭に香園寺くんの大きな手のひらが乗る。
伝わってくる温度に私は身を任せることができない。
本当ならば、もの凄く光栄なことなのに…
辛いだけ。
彼の体温がますます私を苦しめる。
彼は終始にこやかに昇降口を後にした。