HARUKA~始~
嵐が過ぎ去り、波が穏やかになった。





ふうーーーーー…




長いため息を1つして、下駄箱を開け、履き潰したスニーカーを取り、力無く投げ置く。

気にしないようにしていたが、やはり気になる。








―――――誰かが私を見ている。








ふっと後ろを振り返ったけれど、いつものように空振り。

つま先をトントンと鳴らしてそのまま歩き出す。



9月なのにまだまだ熱い。

今日の最高気温31度とか言っていたような気がする。

太陽がジリジリとアスファルトを焦がしていく。

唯一緑のトンネルだけは涼しい。

ここを通ると夏も悪く無いと思えてくる。

夕方になると、爽やかな風が、汗のじんわり滲んだシャツを吹き抜けて心地良いんだ。


のんびりと坂道を下り、駅へと向かって歩いていく。

途中ふと立ち止まり、後ろを確認する。

しかし、後ろを歩いていたのはアツアツカップルだった。

彼らにギロリと睨まれて、しぶしぶと顔を前に戻す。


絶対、誰か見ている。

私に気づかれないように監視しているんだ。

目の前に現れないから、なおさら怖い。

襲われても身を守る術を有していない私はいったいどうなってしまうのだろう。


ああ、誰か私を守ってくれないかな…


そばに居てくれるだけで良いのに。
それだけで心強いのに。

あの日から私は一人ぼっち。

誰にも相手にされぬまま高校生になってしまった。
だから、人との接し方や距離の取り方、笑顔の作り方とか人と交わる上で必要なものを私は知らない。
心得ていないから、不安。
今間違ってないかなと人の顔色を常に窺って生きている。

苦しいよ。

本当はすごくすごく苦しいよ。


―――――でも

私は誰の手も握らない。


差し出されても握れない。



分からないから。

信頼できるかとか、

私の痛みを理解してくれるかとか、

何も分からないから。








空は徐々に茜色に染まり始めている。

窓から見える景色は日に日に移ろい行く。


変わらないもの。

変わってしまったもの。


私はどれ1つとして受け入れられていないのかもしれない。



「ねえユウくん、テスト終わったら体育祭だよね?あたし、リレー見るからね。絶対優勝だよ~」


「わかったって」




そうか

体育祭もうすぐか。

香園寺くんに言っておきながら自分もそんなに意識していなかったみたいだ。

その後はいよいよ席替え。
私の夏は確実に終わりに近づいている。




神様、

お願い。



私に…




この夏最後のプレゼントをください。






午後5時21分18秒。

私の心を大きく突き動かした夏はもうすぐ幕を閉じる。
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