HARUKA~始~
結局、独りきりのクリスマス。



哀れで惨めで悲しくて辛くて…
こんな夜から逃げ出したい。

視界がぼやけて、月が二重に見える。

私は大通りから外れて近くの公園のベンチに腰を下ろした。


すると、糸がプツンと切れて今まで溜め込んできたものが一挙に溢れた。

数時間前に流したはずの涙は、今はもう負の感情に取って代わられ、それが形となって再び現れた。

きっと明日の私はそうとうブサイクだ。
鉢に刺されたみたいに目が赤く大きく腫れ上がるだろう。

それと対面し、それに触れた時、またこの感情に襲われて心が押し潰されるのだろうか?

そう思ったら一生明日なんか来なければ良いと感じた。


「はあーーー」


白い息が夜空に上って行きそうになったが、途中でふっと消えた。


「メリークリスマス」


突然耳に熱が戻る。

うまく視界を確保できない中、目をこじ開けると鎖骨のあたりに両腕が回っていた。

一瞬で目が全開になって、力付くでその腕を振り払う。


「なーんだ、元気あるじゃん」


なんで、こんなときに…


「帰って。1人にさせて」


相手の顔を見ずにそう告げる。

その後の展開もおおよそ読めているので走り出す。


「待ってよぉ。メリクリ言いに来ただけじゃないんだから」

「こういう時に来ないで。今、誰にも会いたくないし、誰の声も聞きたくない」

「はるちゃん!!」


――――何!?


今までに聞いたことのない大声を出したかと思うと、突然ヤツは私の左腕を引っ張って駆け出した。

私は呆気に取られ、ズルズルとヤツに引っ張られる。

白い息が次々とできては消えて行く。 


「私、帰りたいんだけど!」
 
「帰らせないよぉ。今日は11時59分59秒まで、はるちゃんと一緒にいるって決めてるから」


…はあ?


意味不明。

 
一体私はどこに連れて行かれちゃうの?








聖なる夜は私を逃がしてくれないらしい。 

午後9時6分27秒。

私は自分の家とは逆方向の電車に乗っている。
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